現在、私はクロスボーダーM&Aを中心とした、欧州全域の国際取引案件を担当しています。西欧のみならず、東欧や北欧の企業買収、投資案件にも幅広く携わっています。取扱案件の8割は、日本企業による海外企業買収などのアウトバウンド案件、2割は海外企業による日本企業買収といったインバウンド案件です。
クロスボーダーM&A における私の強みは2つあります。1つ目は、「事業戦略上の参謀機能を果たせる」こと。一般的に、M&Aで弁護士が関与するのは、DD(デューデリジェンス)や契約交渉といったエグゼキューションのフェーズのみですが、私はクライアントに帯同し、欧州各国を回って買収先の選定段階からお手伝いします。また、相手企業との契約交渉・実行フェーズのみならず、買収後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)までトータルに対応させていただくケースも少なくありません。クライアントの事業戦略上の重要ポイントを深く理解したうえで、第三者的な立ち位置ではなく「クライアントの参謀」として意見を述べ、買収後に事業が適切にワークし、当初想定されたM&A戦略・シナジーを達成することを意識して進めます。M&A戦略上最低限必要な交渉事項について、相手が無理を通そうとするケースでは、クライアントと協議しつつ、相手方に対して交渉の中止も辞さない強い姿勢も見せながら買収案件をまとめ上げたこともあります。
2つ目は「交渉学に基づいた戦略的交渉ができる」こと。大学時代、日本の交渉学の第一人者である教授に師事し、LL.M.留学中も専攻科目の一つでした。交渉では、「Zone of Possible Agreement(ZOPA、妥結可能条件・範囲)」の理解が重要です。相手のZOPAを見極め、クライアントにとって最良の結果となるような妥結点を探ります。ただ、言うは易し、行うは難し。私は、そこに徹底的にこだわって、できるだけクライアントとともに現地に赴き、交渉の席につき、ランチタイムなどもフル活用して、相手の交渉スタイルや文化的背景、性格、視線、身振り手振りなどから適切なタイミングを計り、こちらの要求を効果的に打ち出せる策を練ります。昨今では、オンラインや電話での交渉も多くなりましたが、以前は1カ月に1度は、数日から数週間程度の欧州出張に出かけていました。オンラインでは相手の反応が読み切れないうえ、その国の法令や社会の変化などのリアルな情報を得ることが難しく、やはりZOPAを把握するためにも、現場が重要だと思っていますので、現在も状況を見ながら少しずつ欧州出張を再開しています。現地主義が、私の弁護士としてのスタイルであり、クライアントのM&A戦略を交渉に反映する最も効果的な方法と考えています。